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平成28年度 司法試験 刑事系第1問 再現答案

第1乙の罪責

1乙が現金を奪う目的でV方に入った行為は、V方の管理権者たるVの意思に反する立ち入りといえるので、「人の住居」に「侵入」したといえ、住居侵入罪(130条)が成立する。

2次に、乙がVにナイフを突きつけ、顔面を蹴るなどして現金を奪い、乙を死亡させた行為に強盗致死罪(240条後段)が成立しないか。

(1)乙は「強盗」にあたるか。乙に強盗罪(236条)が成立しないかにつき検討する。

 ア「暴行又は脅迫」とは財物奪取に向けられた、犯行抑圧に足りる暴行または脅迫をいうと解する。

乙は、ナイフを突きつけて怪我をしたくなければ金庫の場所と鍵の場所を教える様に言っただけでなく、Vの顔面という身体の枢要部を数回蹴り、さらにVの右足のふくらはぎを刺している。乙はこれによりVに強い恐怖心を抱き、ふくらはぎを刺された痛みから床に横たわることしかできなかったのであるから、上記の乙の行為は、犯行抑圧に足りる脅迫および暴行といえ、「暴行又は脅迫」にあたる。

 イ500万円はVの物であるから、「他人の物」にあたる。

 ウ「強取」とは、暴行または脅迫により物を奪取することをいうところ、乙は上記の暴行・脅迫により、Vから金庫と鍵の場所を聞き出し、金庫から現金500万円を奪っているから、これをかばんの中に入れた時点で「強取」にあたるといえる。

 エよって、乙に強盗罪が成立し、乙は「強盗」にあたる。

(2)乙はVを「死亡させた」といえるか。

 ア「死亡させた」といえるためには、Vが強盗の機会に死亡したといえる必要があると解されるところ、Vは顔面を蹴られたことによる脳内出血が原因で死亡しており、強盗の手段たる暴行により死亡しているから、強盗の機会に死亡したといえる。

 イまた、強盗行為と死亡に因果関係が認められる必要もあると解されるところ、顔面を数回蹴れば、脳内出血で死亡することは一般的であり社会通念上相当であるといえるから、因果関係が認められ、乙はVを「死亡させた」といえる。

(3)乙はVを痛めつけてやろうと思って上記行為に及んだに過ぎないから、殺人の故意は認められないが、強盗致死罪の故意は認められる。

(4)よって、乙に強盗致死罪が成立する。後述の通り、甲および丙と強盗罪の限度で共同正犯が成立する。

3甲に虚偽の報告をした行為につき、横領罪(252条)が成立しないか。

(1)現金500万円のうち7割は、本来甲が受け取るべき金銭だったのであり、民法上金銭の所有と占有は一致するが、刑法上は別個に考えるべきと解されるため、350万円は「他人の物」にあたる。

(2)「占有」とは本権者との委託信任関係にもとづく占有をいうと解されるところ、本件では乙に350万円の本権者たるVとの委託信任関係がないため、乙に「占有」は認められない。

(3)したがって乙に横領罪は成立しない。

4強盗の共同正犯は強盗致死罪の共同正犯に吸収され、住居侵入罪と強盗致死罪は牽連犯(54条1項後段)となる。

第2甲の罪責

甲に、乙との住居侵入罪および強盗罪の共謀共同正犯(60条)が成立しないか。

1(1)共謀共同正犯の本質は、共犯者間の相互利用補充関係にあるから、①意思連絡と正犯意思に基づく共謀が認められ、②共謀に基づく実行行為が認められれば、共謀共同正犯が成立すると解する。

 (2)アまず、甲は乙に対してVの家に押し入ってVをナイフで脅して現金を奪って来いと指示し、これに対して乙は分かりましたと述べていることから、V方に侵入してVを脅して現金を奪うことについて意思連絡が認められる。甲は乙にVを痛めつけるような指示はしていないから、乙を蹴ったりナイフで刺したりする行為について、甲乙間に意思連絡は認められない。

 また、甲はみずから乙に指示を出しており、犯行に積極的に関与している。加えてナイフ等の道具を準備するために乙に3万円を渡し、乙はこれによりナイフ等を準備しており、甲は犯行の重要な役割を果たしているといえる。また、現金の7割は甲が受け取ることとなっており、犯行の動機もある。よって甲は自己の犯罪として犯行に関与しているといえ、正犯意思が認められる。

 したがって、意思連絡と正犯意思により、共謀が認められる。

    イそして、前述のとおりVを痛めつけることについての意思連絡は認められないから、乙がVを蹴ったりナイフで刺したりした行為は、共謀にもとづく実行行為であるとはいえない。一方で、乙がナイフを顔面に突き付けて脅し、その後500万円を奪取した行為は、共謀に基づく実行行為であると認められそうである。

もっとも、甲は、乙がV方に侵入するより前に、乙に対して犯行を中止するよう電話で言っていることから、甲に共犯関係からの離脱が認められないか。

   (ア)この点、共犯者間の心理的因果性及び物理的因果性が消滅すれば、相互利用補充関係が解消したといえるので、共犯関係からの離脱が認められると解する。

   (イ)本件では、甲が乙に犯行を中止するよう述べたのに対して、乙は分かりましたと述べているから、甲の離脱について乙の了承が認められ、心理的因果性の消滅は認められそうである。

一方で、前述の通り、甲は乙に対して犯行の道具の準備金として3万円を渡し、乙はこれを利用してナイフ等を購入し、その旨を甲に報告しているから、甲は乙に対して物理的因果性を及ぼしているといえる。そして、甲は乙からナイフ等の道具を取り返していないのであるから、物理的因果性の消滅は認められない。したがって、甲の共犯関係からの離脱は認められない。

よって、乙の上記行為は、共謀にもとづく実行行為であるといえる。

(3)したがって、甲に住居侵入罪と強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

2では、甲に強盗致死罪の共謀共同正犯が成立するか。結果的加重犯の共謀共同正犯が問題となる。

アこの点、結果的加重犯は、基本犯たる行為が高度の危険性を有していることがその重罰根拠であるから、その成立に過失は不要であり、行為と結果との間に相当因果関係が認められれば、結果的加重犯の共謀共同正犯が成立すると解する。

イ本件では、共謀に基づく実行行為であるといえるVに対するナイフの突きつけ行為から、Vが脳内出血で死亡することは社会通念上相当とはいえないから、因果関係は認められない。よって強盗致死罪の共謀共同正犯は成立しない。

3そして、構成要件の重なり合いの限度で共謀共同正犯が成立すると解されるので、甲及び乙には強盗罪の共謀共同正犯が成立し、乙には別途強盗致死罪の単独犯が成立する。

4住居侵入罪と強盗致死罪の共謀共同正犯は牽連犯となる。

第3丙の罪責

1丙は、乙の強盗を手伝う目的でV方に入っており、Vの意思に反する立ち入りといえるから、「人の住居」に「侵入」したといえ、丙に住居侵入罪が成立する。

2丙は乙からVに対する強盗について説明を受けているが、丙は乙の頼みを断っているから、この時点において丙乙間に共謀は認められず、丙に強盗罪の共謀共同正犯は成立しない。

3もっとも、丙は乙がVにナイフを突きつけ、顔面を蹴りふくらはぎを刺した後から犯行に関与しているから、丙に強盗致死罪または強盗罪の承継的共同正犯が成立しないか。

(1)前述の通り、共同正犯の本質は共犯者間の相互利用補充関係にあるところ、共犯者の先行行為を利用し、結果に対して因果性を有するに至ったと認められれば、そのような関係が認められるので、承継的共同性が成立すると解する。

(2)本件では、乙がVに対して暴行・脅迫を行い、金庫と鍵の場所を聞き出したことによって、その後丙は乙とともに現金を金庫から取り出すことができたのであるから、乙の先行行為を利用しているといえる。そして金庫から500万円をかばんに入れたことにより、丙は強盗罪の結果について因果性を有するに至ったといえるから、強盗罪の承継的共同正犯が成立する。

一方で、丙が関与する前にVは乙から顔面を蹴られ、これにより脳内出血で死亡しているから、丙はVの死亡につき乙の先行行為を利用して因果性を有するに至ったとはいえない。よって、強盗致死罪の承継的共同正犯は成立しない。

(3)また、丙は乙の強盗を手伝おうとしてV方に向かっており、犯行に積極的に関与している。また乙から分け前をもらおうとしており、犯行の動機もある。そして、丙は乙からVをナイフで脅して刺した旨を聞いている。よって、丙は強盗罪の客観的構成要件該当事実を認識・認容しているといえ、丙に強盗罪の故意が認められる。

(4)よって、丙に乙と強盗罪の限度で共同正犯が成立し、乙に強盗致死罪の単独犯が成立する。

4住居侵入罪と強盗罪の共同正犯は牽連犯となる。

第4丁の罪責

1丁は金品を盗む目的でV方に入った行為は、Vの意思に反する立ち入りといえるから、「人の住居」に「侵入」したといえ、住居侵入罪が成立する。

2丁はV名義のキャッシュカード1枚をズボンのポケットに入れているところ、キャッシュカードはATMから現金を下ろすのに利用できるから財産的価値を有しているといえ、丁は「他人の財物」を「窃取」したといえるので、丁に窃盗罪(235条)が成立する。

3丁がVから暗証番号を聞き出した行為に強盗利得罪(236条2項)が成立しないか。

(1)Vをにらみ付け暗証番号を教えるよう強く言いった行為が「脅迫」にあたるか。

かかる行為は、暗証番号を聞き出すために行われているから、財産上の利益の取得に向けられているといえる。

また、既に丁に対して恐怖心を抱いており、ふくらはぎから血を流して床に横たわっていて無抵抗な状態であるVに対し、にらみ付けながら強い口調で暗証番号を教えろと言う行為は、暗証番号を教えなければ何らかの危害を加える旨を黙示的に示しているといえ、不法な害悪の告知といえるから、「脅迫」にあたりうる。

そして、Vは丁に対して既におびえていた上、上記の行為によってまた暴力を振るわれるかもしれないと更に強い恐怖心を抱いているから、丁の上記行為は犯行抑圧に足りる脅迫といえ、「脅迫」にあたる。

(2)丁は「財産上不法の利益を得」たといえるか。

 ア「財産上不法の利益を得」たといえるためには、財物と同視できる程度の財産上の利益の具体性及び移転の確実性が必要であると解する。

 イ暗証番号はキャッシュカードを利用する際にATMに入力することで現金を引き出すことができるから、相当程度の財産的価値を有しており、具体的な財産上の利益であるといえる。またVが丁に暗証番号を言ったことにより、丁はこれを認識してATMを利用できるようになるから、移転の確実性が認められる。よって丁は、「財産上不法の利益を得」たといえる。

(3)よって丁に強盗罪が成立する。

4丁は現金を下ろす目的でX銀行Y支店に入っているところ、他人たるVのキャッシュカードを用いて現金を下ろすことは、管理権者たるX銀行Y支店の代表者の意思に反するといえるから、丁の立ち入りは「建造物」の「侵入」にあたり、建造物侵入罪(130条)が成立する。

5ATMからVのキャッシュカードで現金1万円を引き出した行為に詐欺罪(246条1項)または窃盗罪が成立しないか。

(1)「人を欺」くとは、他人を錯誤に陥らせることをいうと解されるところ、ATMは機械であって錯誤に陥らないから、詐欺罪は成立しない。

(2)現金1万円は、X銀行Y支店の代表者が占有するものであるから「他人の財物」にあたる。

(3)「窃取」とは他人の意思に反して物を自己又は第三者の占有に移すことをいうと解されるところ、Vのキャッシュカードの利用はX銀行Y支店の代表者の意思に反し、現金1万円は同代表者から丁へ占有が移転したといえ、「窃取」にあたる。

以上より、丁に窃盗罪が成立する。

6Vに対する窃盗罪は重い強盗罪と包括一罪となり、住居侵入罪と牽連犯となり、建造物侵入罪と窃盗罪は牽連犯となり、両者は併合罪となる。以上