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平成28年度 司法試験 民事系第1問 再現答案

第1設問1⑴

Eは売買契約(555条)に基づいて、A及びDに対して、甲土地の所有権移転登記手続請求を行うことが考えられる。

そして、かかる請求が認められるためには、A及びDが甲土地の売買契約の売主たる地位を有している必要があるところ、本件では、A及びDがCの相続人であることから、Cに甲土地の売買契約が帰属していれば、同契約の売主たる地位は、A及びDに包括承継される(896条本文)。そこで、Cに甲土地の売買契約が帰属するかにつき、以下検討する。

1まず、本件では、AはCの親権者であり、Cの法定代理権を有する(824条本文)。そして、AはCの代理人として、Eに対して甲土地を450万円で売却する契約を締結しているから、かかる売買契約は有権代理(99条1項)として有効にCに帰属するとも思える。

2もっとも、Cは売却代金を自己の借金の返済に充てようと考えて甲土地を売却していることから、上記契約は「利益が相反する行為」(826条1項)に当たり、無効とならないか。

⑴この点、親権者は前述の通り包括的代理権を有しており、取引の安全を図る必要があるから、「利益が相反する行為」に当たるか否かは、外形的・客観的に判断すべきと解する。

⑵本件において、売却代金が借金の返済に充てられることは、Aの内心の問題に過ぎず、外形的・客観的にみて、AとCの利益が相反しているとはいえないから、上記契約は「利益が相反する行為」に当たらず、有効である。

3しかしながら、上記の目的で甲土地を売却することは、Cに不利益を生じさせ得ることから、上記契約は代理権の濫用としてCに帰属しないのではないか。

⑴まず、上記契約は代理権の濫用に当たるか。

ア親権者には前述の通り包括的代理権が与えられていることから、親権者にかかる権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がない限り、代理権の濫用に当たらないと解する。

イ確かに、親権者たるAに借金があれば、Cを養っていくことも難しいため、Aの借金の返済を目的として甲土地を売却することは、包括的代理権を付与した法の趣旨に反しないとも思える。

 しかしながら、本件では、Cは既に自動車販売店に整備しとして雇用され、自分でアパートを借りて生活しているのであるから、Cは既にAに養われることなく、独力で生活できる状態にあるといえる。そうだとすると、C所有であった甲土地の売却代金が、もっぱらAの借金の返済に用いられることは、Cに対して著しい不利益を生じさせるだけであるから、上記契約は、法の趣旨に著しく反する特段の事情があるといえ、代理権の濫用に当たる。

⑵では、かかる契約はCに帰属するか。

アこの点、代理権の濫用は、経済的効果を自己に帰属させようという代理人の内心と、契約の効力を本人に帰属させようという表示との間に不一致があり、心裡留保と同視できるから、93条但書を類推適用し、契約の相手方が代理権の濫用につき悪意または有過失であれば、契約の効力は本人に帰属しないと解する。

イ本件では、売買契約の相手方たるEは、Aが遊興を原因として多額の借金を抱えており、乙土地の代金600万円をAの借金に充当するつもりであることを知っていたから、Aの代理権濫用の意図につき悪意であったといえる。

したがって、契約の効力はCに帰属しない。

4以上より、売買契約はCに帰属せず、売主たる地位はA及びDに対して承継されないため、Eの請求は認められないとも思える。

 もっとも、本件において、Aは代理権を濫用しているから、かかるAが代理権の濫用を主張して請求を拒絶することは、信義則(1条2項)に反しないか。

⑴代理権を自ら濫用した後に、代理権の濫用による本人に対する契約効果の不帰属を主張することは矛盾挙動であるから、代理人自ら代理権の濫用を主張することは、信義則に反し許されないと解する。

⑵したがって、本件では、Aが代理権の濫用を主張して請求を拒絶することは、信義則に反し許されない。

5ただし、Dが代理権の濫用を理由に請求を拒むことは許されるため、EによるAの甲土地の持分の限度における移転登記手続請求は認められるが、A及びDに対する甲土地の所有権移転登記手続請求は認められない。

第2設問2⑵

DはFに対して、乙土地の持分権に基づいて、丙建物の収去及び乙土地の明渡しを請求することが考えられる。

1かかる請求が認められるためには、①Dに乙土地の持分権が認められ、②Fが丙建物を所有することにより乙土地を無権限で占有していることが認められる必要がある。

⑴本件では、AがCの代理人として、乙土地を600万円で売却しているところ、前述の甲土地と同様に、かかる売却は代理権の濫用としてCに帰属しない。そうだとすると、乙土地はC所有のままであり、Cの死亡により、A及びDが甲土地を共同相続している(898条)から、Dに乙土地の持分権が認められる。

⑵また、Fは乙土地上に丙建物を建築しているから、丙建物を所有することにより、乙土地を占有しているといえる。また、前述の通り、乙土地の売買契約はCに帰属しないため、乙土地の所有権はCからEに移転していない。そうだとすると、EF間で締結された乙土地の売買契約は、他人物売買(561条)に過ぎず、Fは乙土地の所有権を取得しないから、その占有は無権限であるといえそうである。

2もっとも、94条2項に基づいて、Fが乙土地の所有権を取得することはできないか。

⑴AF間において虚偽表示はないから、同条を直接適用することはできない。

⑵アもっとも、同条項の趣旨は、本人の帰責性の下に作出された虚偽の外観を信頼した第三者を保護する点にあるから、①虚偽の外観が作出され②かかる外観につき本人に帰責性があり③第三者の信頼が認められれば、同条項の類推適用が認められると解する。

 イ本件では、乙土地についてCからEに所有権移転登記手続がなされているから、虚偽の外観が認められる(①)。もっとも、かかる登記の移転は、Aにより行われたものであり、DはAに対してCの遺産について尋ねるなどしているが、無視されてしまっているのであるから、Dに虚偽の外観の作出につき、帰責性は認められない(②不充足)。

⑶したがって、94条2項の類推適用は認められず、Dの請求は認められる。

第3設問2⑴

MはEH間の消費貸借契約(587条)に基づく貸金債権をHから譲り受けたとして、Eに対して500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払を請求することが考えられる。

1まず、EH間の消費貸借契約の有効性について検討するに、EはHに対して、賭博に使うつもりであることを打ち明けて、平成26年4月1日、Hから500万円を借り受けている。そして、賭博への使用という契約の目的は、賭博罪(刑法185条)にも当たりうるものであり、公序良俗(90条)に反するといえるから、かかる目的に基づくEH間の消費貸借契約は無効である。

2もっとも、平成26年8月1日、HはMに対して、貸金債権を売却しているところ、MはEに対して債権を譲り受けたことを対抗できるか。

⑴本件では、貸金債権の譲渡を承諾する旨の書面がEからHに返送され、Mに交付されているから、債務者の承諾があるといえ、Mは債務者対抗要件を備えたといえる(467条1項)。

⑵そして、上記の書面には、なんら異議をとどめる旨が記載されていないから、Eによる異議をとどめない承諾が認められるところ、かかる承諾によりEによる消費貸借契約の無効の主張が制限されるか。公序良俗違反を理由とする契約の無効が、「事由」(468条1項)に当たるかが問題となる。

アこの点、同条項の趣旨は、異議をとどめない承諾がなされた場合に、債権の譲受人の取引の安全を図る点にあるところ、債権の発生原因たる契約が公序良俗に反する場合にまで、譲受人の取引の安全を図る必要性はない。そこで、公序良俗違反を理由とする契約の無効は、「事由」に当たらないと解する。

イしたがって、Eの異議をとどめない承諾にかかわらず、Eは公序良俗違反を理由とする貸金債権の不発生をMに対して主張でき、Mは債権の取得をEに対抗できない。

3以上より、MはEに対して貸金債権を有しないから、請求は認められない。

第3設問2⑵

MはEに対して、不当利得返還請求(703条、704条)として、500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払を請求することが考えられる。

1Eは、Hから500万円の交付を受けており、500万円の「利益」を有している。

2Mは、Hから400万円で貸金債権を譲り受けているから、Mには400万円の「損失」が認められる。

3Eの上記の「利益」は、「法律上の原因」がないものといえるか。

⑴同条の趣旨は、当事者間の公平にあるから、公平の理念からみて、財産価値の移動を、その当事者間において正当なものとするだけの実質的相対的理由がないことをいうと解する。そして、債務者が対価関係なく利益を得たときには、財産価値の移動に実質的相対的理由はないといえると解する。

⑵本件では、EH間の消費貸借契約が前述の通り無効となるところ、EがHに対して500万円の返還義務を負っている場合には、Eは対価関係に基づいて500万円を有しているといえる。

 そして、Hが賭博の使用を目的としてEに500万円を交付したことは、不法原因給付(708条本文)に当たる。Hは賭博の使用を知っていたのであり、「不法な原因が受益者についてのみ存した」とはいえず、同条但書の適用はないから、同条本文により、EはHに対して、500万円の不当利得返還義務を負わない。

 したがって、Eは対価関係なしに500万円を有しているといえるから、Eの「利益」は「法律上の原因」のないものといえる。

4Eが賭博のためにHから500万円を借りたことを原因として、消費貸借契約が無効となり、Mは貸金債権を行使できずに400万円の損失を被っているから、400万円の限度で、「利益」と「損失」の因果関係が認められる。

5以上より要件を満たすので、Mの請求は400万円の限度で認められる。

第5設問2⑶

LはEに対して、459条に基づいて、584万円の支払を請求することが考えられる。

1EはLに同意を得て連帯保証人になってもらっているから、Lは「委託を受けた」保証人に当たる。

2もっとも、Lは「債務を消滅させるべき行為」をしたといえるか。

⑴本件では、EK間で500万円を借り受ける合意がなされているところ、消費貸借契約の成立には金銭授受が必要と解されるが、本件では合意から1年以上経過しても金銭授受がないから、消費貸借契約は無効である。

よって、そもそも消費貸借契約に基づく貸金債権は存在せず、「債務を消滅させた」に当たらないとも思える。

⑵もっとも、478条の趣旨は、債権の準占有者を真実の債権者と誤信して弁済した弁済者を保護する点にあるところ、かかる趣旨は、Kから消費貸借契約が成立したかのような態度で連帯保証債務の履行を請求された本件におけるLにも妥当する。

 よって、同条に基づいて、Lの弁済は有効であり、「債務を消滅させた」に当たる。

3以上より、Lの459条に基づく請求は認められる。    以上